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2008年06月17日

アキバのその後

「彼らをケイタイで撮るのはやめてください」とその男は言った。
 AED設置のために大声で募金を呼びかける若者たちがいた。土曜日の午後の秋葉原駅前。その姿を何気なしに撮ろうとケイタイを向けた僕の前に、一眼レフを首に提げた四十がらみの男が立ちはだかった。
 僕は咄嗟にすいませんと謝ってケイタイを収めた。確かにご時勢からしても軽率だったと反省する。が、男の説教はそこからが本番だった。
「あなたみたいな人が人を傷つけてるんですよ。まだわからないんですか?」と強い口調で男は続ける。「彼らの真剣さがわからないんですか?」
 やれやれ。もちろん悪意はなかった。若者たちがこういう活動をしているとブログやmixiで紹介しようとカメラを向けただけのこと。確かに配慮が足りなかったと思う。僕は男にそう説明したがまったく聞く耳を持たず、さらに語調を荒げるだけだった。
「あなたは誰かに頼まれたんですか? 我々は彼らに依頼されて撮影してるんです。報道はわれわれプレスが責任もってやります。余計なことはしないでください」
 ここでさすがに僕もキレた。
「せいぜい偽善報道でもやってなよ」
 僕はそう吐き捨てると、なおも何か説教したそうな男を無視してその場をあとにした。
 ことほど然様に秋葉原の異常さは想像をはるかに超えていた。
 それは事件の翌週の土曜日のこと。
 夕方から秋葉原でオフ会があった。僕は少し早めに出てあの凄惨な事件のあった場所へ花を捧げに行ってきた。
 凶行現場の交差点の一角には白いテントの献花場があり、周囲は手を合わせる人々でごったがえしていた。その人だかりを押し分け、たくさんの花束が折り重なった上に僕も地元の駅で買ってきた花を供え、両手を合わせた。
 駅を出るなりあんなつばぜり合いがあったせいで余計にそう感じたのかもしれないが、街の雰囲気はどこかおかしかった。2週間前に訪れたときとはまったく違う空気だった。誰もがびくびくしながら周囲を警戒しているといったら大げさかもしれないが、現場に近づけば近づくほどピリピリしてくる緊張感が肌に痛くなる。献花を済ませるとすぐにその場を離れた。
「ケイタイ撮ってんじゃねーぞコラァ」
 ブツブツ言いながら献花台の周りをうろつくのは、眼の焦点の定まらない不気味なひげ面の若者。事件現場で夥しい数の携帯写真が撮られたことへの批判から、携帯カメラに対する牽制の空気はさながら魔女狩りだった。献花台の付近には携帯電話を取り出しただけでさっと寄ってきて無言で睨みつける「自警団」のような連中までいた。

 現場だけではない。 携帯カメラのことも含め、この事件をめぐるいろんな事柄についていつの間にかネット上でコンセンサスが出来上がっている。それに少しでも反したことをblogその他に書こうものなら、どこからともなく飛んでくる匿名の火の粉をかぶせられ、一瞬のうちに炎上の憂き目に遭うらしい。何か社会的に重大な事件が起こるたびにこういう異常なセンチメントがネットを支配する。この得体の知れないエネルギーはいったいなに?
 こんなマイナーなblogでさえこの一文で炎上のリスクを抱えることになるのかも。しょせん人ごと、高みの見物などという批判の火の粉がいつ飛んできてもおかしくない。決して人ごとじゃないのだが。僕だって先週、まさにあの時刻にこの場にいたかもしれないのだ。
 確かに犯人は異常だった。犯行も異常だった。しかし事件によって人々もまた異常になった。秋葉原という街が、世間が、冷静さを取り戻すのにはまだまだ時間がかかりそうな気がする。そしてこの救い難い空気こそが次の事件の温床になる気がしてならない。


 末筆ながら、犠牲者のご遺族の方には心よりお悔やみ申し上げます。
 お怪我をされた方々には、一日も早くご快癒されますようお祈り申し上げています。


タグ :秋葉原

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Posted by こたに大将 at 00:02│Comments(5)その他
この記事へのコメント
興味深く読ませていただきました
私も通勤途中に秋葉原があるためよく街をうろついているのですが、たしかに事件後の秋葉原は一種独特な空気が漂っている気がします
俗に言うアキバの住人の方々にとって、聖地である秋葉原が悪い方向に進んでいることに我慢がならないのでしょう
つまり「自分たち以外はすべて敵」という一つの大きな意思が街を支配しているのかもしれません

なんだか怖いですね
Posted by ヘンノ at 2008年06月17日 01:14
こんばんは。
先日は失礼致しました。(^ ^;)ゞ

それにしても・・・
その一時の行動を見て、対象を批判したり、
>報道はわれわれプレスが責任もってやります。余計なことはしないでください
~なんて言っちゃう<プロ>がいるんですね~
)))))(/_×)/

こう、個人的には、ドロドロと混沌とした多様的な社会は好きなので、
こんなことを言うのも身に合わないのですが・・・(^ ^;)ゞ

 この手の軋轢って各々根っ子のところでは同じ思いで、違いはあれど、どちらにも理が有る分、先鋭化するにつれ溝が広がるのが、子供の問題を議論するうちに、いつしか親同士の対立になってしまう某会合に似ているでしょうか?

 事件自体は感情を抜きにしては語れない問題だと思いますが、文中のカメラマン、ジャーナリストだというなら尚更、せっかく尤もな義憤を持ち合わせたのだから、ぜひ「北風と太陽」という話を思い出して欲しいところです。
(正論って時に凶器かもしれない。)

 ぬるくて迂遠でウザくても、お互いを取り込んだ上で共通認識ってのは積み上げないと新たな不満と軋轢を生む気がします。
Posted by 虚空弾道虚空弾道 at 2008年06月17日 05:27
拝見させてもらいました。
変な話、携帯で写真が撮れてしまうのも問題かもしれませんね・・・・・だけど携帯で写真を撮るわけでもないのに出しただけで睨まれるのは・・・・・何なんでしょう?自分たちが正義になったつもりなのか?

>報道はわれわれプレスが責任もってやります。余計なことはしないでください
これには腹がたちますね、プロだから何でも撮っていいわけでもないですし優遇されているという勘違いが起こってるのかもしれませんね
Posted by ヤナギ at 2008年06月17日 18:13
あ!二度の書き込みスミマセン・・・・・
募金を求めている男でコスプレをしている奴は結構前に秋葉原のホコ天でエアガンを使って撃って問題になった張本人みたいです。写真を見た限り同一人物でした、
http://turenet.blog91.fc2.com/blog-entry-2821.html

AEDを設置ではなくもしかしたらホコ天の復活しか考えていないのかもしれません(´・ω・`)
Posted by ヤナギ at 2008年06月17日 18:17
みなさま

 いろいろとご意見をありがとうございました。
 アキバのことはもう少し時間をかけて考えてみたいと思います。
Posted by こたに大将 at 2008年06月23日 19:22
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